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ヘヴン

このblogのタイトルを決めるきっかけになったのが、川上未映子さんのエッセイでした。

川上さんのデビュー作「わたくし率・・・」は、さすが詩人、言葉の使い方がすごく新鮮でした。で、この「へヴン」は、そういった「技術」から一歩引いた筆致で書かれた初の長編ですが、いわゆる「正統な文学」としていい本だと思います。

主人公は斜視で、日々ひどい苛めにあっている中学生。理不尽な状況と彼のピュアな心理、どうにもやりきれないきれない気持ちにさせる痛々しい描写が延々と続く。しかし、最後に斜視の矯正手術をして、黄金色の秋の並木道で、キラキラ輝いた世界を初めて自分のピントの合った両目で見て、主人公は涙を流すところでこの物語は終わる。読後は極めて爽やか。

一言でいうと、「世の中の理不尽さと、解脱の物語」。

おそらく「世界」は一つしかないのだ。

しかし、その「世界」との関わり合い方となると、人間個人々々がそれぞれの都合のいいように解釈し行動している。そういった意味では、個々人の数だけ「世界」は存在する。その「世界」の解釈と行動が交差し、ぶつかり合いながら世の中というものは構成されている。そして、それが世の中の理不尽の根源だ。しかし、その理不尽さの中で生き方を選び取っていくのも、また自分自身である。わたしなりの解釈はそんなところかな。

川上さんは苛めについて、「苛めはいけないことだ。」「なぜなら、自分が同じことをされたら嫌でしょう。だから、人が嫌がる苛めを人にしてはいけません。」という一般的な解釈で済ませられない、済ませてはいけないものを感じて、この本を書かれたのだと思います。 いい本です。

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