大停電の夜に
クリスマスの東京を舞台にした映画。
でも、華やかというのではなく、すごく静かな映画です。
地球を周回する人工衛星の部品が外れて、発電所に落下。人でにぎわうクリスマスイヴの街が突然真っ暗になる。
そんな状況の中で、
・かつて、付き合っている女性を残してニューヨークに渡り、結局出戻っては来た元ジャズベーシスト、
・上司と不倫をし、未来の無い関係に「さよなら」して、打ちひしがれているるOL
・上海に残してきた恋人と、最近しっくり来ていない遠距離恋愛中の中国人ホテルマン
・服役中に恋人が他の人と結婚してしまったことを知った男
・明日乳房を切除する予定で、絶望している乳がんのファッションモデル
・かつて、私生児として生んだのちに生き別れた息子から、「父親が余命いくばくもので、死ぬ前に会ってやってほしい」と連絡を受けた老婦人
といった、オムニバスな人間模様が繰り広げられるところから話は始まる。 ~ 彼らが一つだけ共通しているのは、都会である種の閉塞感をもった人間関係を引きずりながら暮らしているということだ。そんな赤の他人同士が、ひょんなことからすれ違い、かかわりあいながら話は進行する。
真っ暗になった街でろうそくの火に照らされながら、BGMもほとんどなく、登場人物のつぶやくようなセリフで話が進行していく。やさしい光を放ちながら短くなっていく無数のろうそくが、時間の経過、取り返せない過去、様々な事情をかかえながらも健気に生きる人間の”命”、”生”を象徴するかのようだ。 ~ そして、一度は絶望しながら、みんなどこかで、”クリスマスの奇跡”を待っている。
やがて、朝はやってくる。それぞれの人間がそれぞれの人生にケリをつけてながら、あるいは、ケリがつかない状況を受け入れながら、生きていく。そんな映画。
クリスマスは華やかでいいけれど、来し方行く末に思いをはせる年末、師走のあわただしさから二時間だけ離れて、夜、できれば一人で静かに観たい映画です。