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ぶらんこ乗り


裏書きに「物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長編」とある。今、思いつく限りで、このブログでいちばんに紹介したい本。

息子が小学生の時に、とても優秀な塾の先生に、課題図書として与えられたもの。 息子は先生から「この主人公は最後、弟と会えたのか」というお題を出され、「パパはどう思うか」と訊かれて読み始めたらハマッてしまった。

天使の様な弟と、その姉(主人公)の物語。 ぶらんこと指を鳴らすのが得意な弟は、声失った代わりに、いつしか動物と話が出来たり、「あっち側の世界」と行き来する様になる。 

「ぶらんこ乗り」というタイトルは、「あっち側」と「こっち側」の世界を行き来する者の姿を象徴している。

話が進むにつれ、弟はどんどん「こっち側の世界」に居られなくなる。 一方姉は当惑しながらも、弟がこの世界にしがみつこうと必死で手を伸ばしていることに気がつかない。そして、弟は「あっち側の世界の人」となり、姉の前から姿を消す。

月日が流れてある雪の夜、姉が仕事帰りにぶらんこに乗っていると、指を鳴らす音が公園に響くのが聞こえた・・・

あんまりいい話なので、中学の同級生で、その頃から本の読解が飛び抜けて良く出来た、今は大手出版社の編集部のお偉いさんになってる友達に無理矢理読ませて、「さて、主人公は、弟と会えたと思うか。」と、意見や感想を訊いてみたりもした。(後日、彼からはすばらしい答が返ってきた。)

「降り積もる雪のなかに消えていく指の音を、わたしはいつまでもみおくっていた。そして待った。」 

さて、主人公は無事弟と再会できたのか。 ほんとうに”奇跡的に愛おしい”本です。

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